今月の一冊は読めば世界の見え方が変わる!『数の発明――私たちは数をつくり、数につくられた』(みすず書房)
今月の1冊、『数の発明――私たちは数をつくり、数につくられた』(みすず書房)
書籍:『数の発明――私たちは数をつくり、数につくられた』
(ケイレブ・エヴェレット, 屋代通子(翻訳) / みすず書房)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/303073/
選書理由
最近は小説を取り上げることが多かった気がするので、たまには人文書を取り上げてみました! 数にまつわる本ですが、中身は人類学や言語学をベースにした人文系の内容で、とても面白かったです。
ブックレビュー
本書はこのような書きだしから始まる。
「あなたはいくつ? ごく幼い頃から、この問いの答えはまさに指先にあった。そしておそらく、答えにたどり着くまでにも1秒とかからないだろう」(『数の発明』)
たしかにそれはそうだ。私たちは誕生日を過ぎれば「また一つ年を取ったなあ」と感じるし、友達に子どもが産まれれば「いま何歳だっけ」と聞きたくなる。それが当たり前だ。
数ほど、当然のものとして受け取っている概念はほかにない気もする。まだ言語のほうが、「海外に行けば通じない」「方言にはあるけど標準語にはない表現がある」など、当たり前のものではないという感覚が強い。でも、数はどこでだって通じる。同じように私たちは林檎が一個あれば全員がそれを一個だと思うことを疑わない。
しかし本書は、そんな自明な存在に思える「数」は、実は当たり前ではないと言う。本書の作者は人類学者。世界には、「数」を数えない民族が存在するのだという。
「数」が当たり前のものではなく、実は、一部の人類が発明したものだった。そこから、「数」の秘密に迫ったのが、本書『数の発明』である。
本書の話題は多岐に渡る。作者が人類学者でもあるため、数の捉え方を言語や書き文字から語る章も存在すれば、一方で幼い子供や動物がどうやって数を捉えているのかという話題を扱う章まである。
たとえば私たちは、1個のチョコレートが乗ったお皿より、2個のチョコレートが乗ったお皿のほうがお得だと思うだろう。しかしその1と2を判別する機能は、ほかの動物にもついているのか? また1と2なら判別できるかもしれないが、157個と158個だったら、一瞬では判別できない。考えてみれば、その差はどこにあるのだろう? それを認識するのは、はたして脳の問題なのか、それとも後天的に習得したシステムなのか。そんな問いを作者はさまざまな角度から解きほぐす。
私は「数」を言語だとあまり思っていなかったのだが、本書を読むと、数というのはそもそも言語的なものなのだと考え直さざるをえない。たとえば面白いのが、人々の多くが10進法で物事を捉えやすいのは、手の指が10本であることが原因ではないかと作者は指摘する。たしかに考えてみれば、小さい子はよく指で10まで数えている。それを思うと、数えるというのは、決してもともとできる能力ではないのかと分かる。また時計の多くが60進法を使うことにはとくに意味はなく、古代から続く慣習のひとつではないか……という話も、そんなものなのかと拍子抜けしてしまう。
数もまた、人類が作り上げた言語のひとつなのかもしれない。そう考えると、世界の見え方が変わって来るから不思議なものだ。
この本を読んだ人が次に読むべき本
書籍:『ダイエット幻想』
(磯野真穂 / 筑摩書房)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/285633/
書籍:『働くことの人類学【活字版】 仕事と自由をめぐる8つの対話』
(松村圭一郎 , コクヨ野外学習センター / 株式会社黒鳥社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/303905/
地球上に存在するさまざまな民族の「働き方」にフォーカスした、文化人類学視点の仕事論。働くとひとくちに言っても、常識をくるりと変えられるほど、皆それぞれ違いがある。働くことを考え直したいときに。
Kaho's note ―日々のことなど
これを書いている今、完全に街は師走モード、クリスマスモード一色なのですが、もう年の瀬は仕事が忙しすぎてそれどころじゃないよ! と毎年思います。でもそれはそれとしてクリスマスのキラキラした装飾は好きなので、もっとクリスマスシーズンが長くてもいいのになーとも。要はもっと落ち着いてクリスマスのキラキラを楽しみたいということですね。ら、来年こそ!
三宅香帆さんが選んだ1冊は、本が好き!月間ランキングから選出いただいています。
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