今月の一冊は、小説で恋愛を読む醍醐味が詰まっている『恋愛中毒』(KADOKAWA)
今月の1冊、『恋愛中毒』(KADOKAWA)
書籍:『恋愛中毒』
(山本文緒 / KADOKAWA)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/18009/
選書理由
実は2021年の冬に大ハマりしていた山本文緒さん作品。「えっ?」と驚いてしまうオチが見ものの作品です。
ブックレビュー
『恋愛中毒』というタイトルから、なんとなく若い女性の軽い恋愛物語かな……という適当なイメージを抱いていた自分を読後反省した。
本気で「中毒」の話なのだ、これは。
主人公は、40代のバツイチ女性。彼女・水無月圭子は、翻訳家志望だが、弁当屋でバイトして生計を立てている。
バイト先で出会ったのが、人気の小説家である創路功二郎。彼はいかにもモテそうな雰囲気を醸し出しており、そして主人公も彼に恋をしてしまう。
彼には本妻もいれば、愛人もいる。功二郎の事務所で働き始めた主人公は、彼を取り巻く女性関係を徐々に知ってゆくのだった。
恋愛中毒、という言葉がタイトルになっているけれど、本来恋愛というものはお酒とかたばことかそういったものの仲間なのかもしれない。
アルコール中毒、とかニコチン中毒、とか言うみたいに。
適量だったら人間関係の構築に有用だし、ストレス解消にだって役立つのだけど。もっと多くの量を嗜むようになると、どんどん体に悪い存在になってゆく。
でもそうなったときには、抜け出せなくなる。
そう考えると「恋愛中毒」という言葉は、言い得て妙なタイトルだな、と感じる。
主人公の圭子は、功二郎のような男性にハマったらまずいことくらい、なんとなくわかっているのだ。しかしそれでも一度出会ったら、ハマってしまう。その心の動きというのは、小説でしか味わえない、ずぶずぶの泥沼っぷり。
ぜひこれから読む人には、圭子にツッコミを入れつつ、あるいはものすごく圭子に感情移入しつつ、ページをめくってみてほしい。
この小説は、最後まで読んではじめて「あ、そういう話だったのか!」と全体像がわかるような仕掛けが施してある。
もしかしたら最後まで読んだ人は、「これ恋愛小説じゃないじゃん」と思うかもしれない。どちらかというとミステリとか、そういう類の小説だと感じる人もいるかもしれない。
しかし私は、それでもこれが恋愛小説だなあと感じる。
恋愛の面白さと怖さがどちらも描かれているから。現実ではなかなか体験できないような、恋愛の極端な側面が、これでもかと綴られ尽くしているのだ。
小説で恋愛を読む醍醐味が詰まっている本作。フィクションだからこそ味わうことのできる感情のジェットコースターを楽しんでみてほしい。
この本を読んだ人が次に読むべき本
書籍:『自転しながら公転する』
(山本文緒 / 新潮社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/295040/
書籍:『『ブルーもしくはブルー』/a>』
(山本文緒 / 角川書店)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/58190/
山本作品で描かれる恋愛は、どこか怖くて、ホラーのような様相を帯びている。その怖さが前面に出たのがこちら。夫婦の入れ替わり物語。
Kaho's note ―日々のことなど
これを書いている2日後に引っ越しすることになったのですが、3年ぶりの引っ越し、こんなに大変だとは覚えていなかった……。「こんなに詰めても詰めても終わらないこと、ある!?」と半泣きになりながら引っ越し作業してます。がんばります……。
三宅香帆さんが選んだ1冊は、本が好き!月間ランキングから選出いただいています。
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