今月の一冊は、時代を超えて届いた、かの有名戯曲にまつわる物語『ハムネット』(新潮社)
今月の1冊、『ハムネット』(新潮社)
書籍:『ハムネット』
(マギー・オファーレル, 小竹由美子(翻訳)/ 新潮社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/303222/
選書理由
シェイクスピアを題材にした小説や漫画は多いが、彼の妻に焦点を当てた物語は読んだことがないなあと思って選びました!
ブックレビュー
実際に観たことはなくとも、『ハムレット』というタイトルを聞いたことがある人は多いのではないだろうか。
シェイクスピアの描いた『ハムレット』は、今でも日本で繰り返し上演されるほどに有名な父と息子の物語である。
一方で今回紹介する本のタイトルは『ハムネット』。一字違いのこのタイトルの由来は、なんと、シェイクスピアの息子の名だった。
本書は、シェイクスピアの妻が語り手となり、戯曲『ハムレット』の謎に迫った物語である。
主人公アグネスは、あまりにも知識が豊富で、自然に対する感覚も鋭いがゆえに、周囲から「魔女」と評されている女性。彼女の才能を感じ取ったシェイクスピアと恋をして、ふたりは結婚することになる。生まれてきた子の名はハムネット。
転機は、鬱々とした日々が続いていたシェイクスピアに対し、アグネスがロンドン行きをすすめるところから始まる。都会に行って、自分の才能を発揮してきたほうがいい。神秘的な力を持つ女性であるアグネスはそう予言する。
息子と妻を田舎に残してロンドンへ向かったシェイクスピアは、都会で成功する。
一方で残された息子に悲劇が起きる。当時流行していた感染症にかかって、ハムネットは病死してしまうのだ。
シェイクスピアはそんなことお構いなしに都会で仕事を続ける。そしてアグネスはある日、シェイクスピアの新作戯曲のタイトルが、息子の名であることに気づくのだった。
本書は小説ではあるが、実際のアグネスやシェイクスピアの史実に沿って物語は組み立てられている。
シェイクスピアの妻というと恐妻のイメージを持つ人も多いだろうが、この物語は、そんなイメージは偏見だといわんばかりに魅力的なアグネスの姿が描かれている。
当時の時代にあってありふれた夫婦の喪失の物語が、シェイクスピアの手によって、『ハムレット』という物語に変わっていた。
それは、突然の疫病に襲われた悲しみやどうしようもない夫婦の擦れ違い、そしてなによりふたりがどうやって人生を乗り越えていくのかを、戯曲というかたちに換えて描いた、シェイクスピアとアグネスの物語そのものにほかならない。
時代を超えて、新しい『ハムレット』の物語、そしてシェイクスピアの妻ではなくアグネス自身の物語がここに誕生し現代日本まで運ばれてきたことを寿ぎたい。
この本を読んだ人が次に読むべき本
書籍:『シェイクスピアの正体』
(河合祥一郎 / 新潮社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/306085/
書籍:『7人のシェイクスピア 1』
(ハロルド作石 / 小学館)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/50036/
シェイクスピアの正体について描いた物語つながりで、こちらはシェイクスピアは複数人の作家たちの集合体だったという説を展開する漫画。シェイクスピア戯曲も多々紹介され、入門としてもとても良い漫画です。
Kaho's note ―日々のことなど
ついこないだ年が明けたと思ったのに、もう年度末。1~3月のスピードは毎年速くなっている気がする今日この頃です。
三宅香帆さんが選んだ1冊は、本が好き!月間ランキングから選出いただいています。
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