ブックイベントに行ってみた!「はじめての読書会番外編: ドイツミステリこの10年大回顧」(酒寄進一さん×マライ・メントラインさん)
今月から月1回程度、イベントレポート記事を書かせていただくことになりました佐野隆広(タカラ~ム)です。よろしくお願いします。
記念すべき第1回は、2019年11月10日に開催された「はじめての読書会番外編*:ドイツミステリこの10年大回顧」のレポートです。ドイツ文学翻訳家の酒寄進一さんと、テレビのコメンテーターとしても活躍しているマライ・メントラインさんが、最近10年のドイツミステリ事情を存分に語り尽くすイベント。ドイツミステリ事情に精通したおふたりの楽しいトークが炸裂したイベントでした。
「はじめての読書会」は、今年第5回を迎えた書店横断フェア「はじめての海外文学」の関連イベントです。フェアで推薦されている本の中から1作品を選び、翻訳者さん、出版社の編集さん、海外文学好きの書店員さん(BOOKS青いカバの小国さんと双子のライオン堂の竹田さん)がその作品についてトークする前半パートと参加者も入って意見交換する後半パートにわかれて行われます。司会は書評家の倉本さおりさんです。『読書会』となっていますが、発言しなくても大丈夫な和やかな雰囲気のイベントになっています。今回のイベントは、その番外編になります。
「はじめての読書会番外編:ドイツミステリこの10年大回顧」
日時 2019年11月10日(日) 15:00~16:30
会場 GLOCAL CAFE 青山店
登壇者 酒寄進一さん、マライ・メントラインさん
https://peatix.com/event/1351832/view
ドイツミステリを牽引する3大ジャンル
酒寄さんによると、ドイツミステリには大きく「警察ミステリ」「歴史ミステリ」「サイコサスペンス」の3つの山があるそうです。
「警察ミステリ」の代表的な作家としては、ネレ・ノイハウス(「深い疵」「死者と生者に告ぐ」など)があげられます。刑事オリヴァー&ピアシリーズで、日本にもファンの多い作家です。ドイツでも人気の作家で順調にシリーズ作品が刊行されています。マライさんによると、ドイツでは日本でいうところの2時間サスペンスのようなドラマが人気なのだそうで、警察ミステリもよく読まれているとのこと。刑事オリヴァー&ピアシリーズは、2020年も引き続き翻訳刊行されることが決まっているそうです。
〈ドイツ、日本でも人気の高い刑事オリヴァー&ピアシリーズ〉
書籍:『深い疵』
(ネレ・ノイハウス,酒寄進一(翻訳)/東京創元社)
書籍:『生者と死者に告ぐ』
(ネレ・ノイハウス,酒寄 進一(翻訳)/東京創元社)
好評な「警察ミステリ」に対して、「歴史ミステリ」はあまり日本人受けが良くないといいます。「歴史ミステリ」に分類される作家としてはフォルカー・クッチャー、ハラルト・ギルバースがあげられます。クッチャーは、2011年に「濡れた魚」が刊行されて以降第3作の「ゴールドステイン」までは刊行されましたがそこで翻訳が止まっています。ハラルト・ギルバースは、「ゲルマニア」に始まる刑事オッペンハイマーシリーズが第3作の「終焉」まで翻訳されていますが、ドイツでは第5作まで刊行されているそうです。日本では受けの良くないという「歴史ミステリ」ですが、ドイツでは人気が高いそうで、最近はナチス時代を描く作品も増え始めているとのことでした。
〈歴史ミステリ作家フォッカー・クッチャーの邦訳作〉
書籍:『濡れた魚 上』『濡れた魚 下』
(フォルカー・クッチャー,酒寄進一(翻訳)/東京創元社)
〈ハラルト・ギルバースの刑事オッペンハイマーシリーズ〉
書籍:『ゲルマニア』
(ハラルト・ギルバース,酒寄進一(翻訳)/集英社)
人間の内面を描く「サイコサスペンス」の代表的な作家としては、セバスチャン・フィツェック(「ラジオキラー」「座席ナンバー7Aの恐怖」など)があげられます。いま、ドイツでも大人気の作家です。マライさん曰く、下品でグロい、スピード感がある作品を書ける作家で、法医学者と合作で作品を発表したり、ボードゲームを作ったりもしているそうです。
書籍:『ラジオ・キラー』
(セバスチャン・フィツェック,赤根洋子(翻訳) /柏書房)
書籍:『座席ナンバー7Aの恐怖』
(セバスチャン・フィツェック,酒寄進一(翻訳) /文藝春秋 )
ドイツではオーディオブックが人気
その他、ドイツの文学市場についての話の中では、オーディオブックが売れているという話がありました。車での移動中に聞くことが多く、オーディオブックが人気になったことで、酒寄さんは、作家が聞かれることを意識して作品を書くようになっていて、その代表例として、作中に方言を使った作品が増えているように感じているそうです。ただ、翻訳家としては、方言は訳すのが難しく悩みどころなのだとか。
酒寄さん、マライさんおすすめの「はじめてのドイツミステリ」
最後に参加者からの質問タイムがあり、「はじめて読むドイツミステリとしてのオススメは?」との質問に、酒寄さんはシーラッハの短篇3部作(「犯罪」「罪悪」「刑罰」)を、マライさんはユーディト・W・タシュラー「国語教師」をあげていました。
酒寄さんのおすすめ〈フェルディナント・シーラッハ短編三部作〉
書籍:『犯罪』
(フェルディナント・フォン・シーラッハ,酒寄進一(翻訳)/東京創元社)
書籍:『罪悪』
(フェルディナント・フォン・シーラッハ,酒寄進一(翻訳)/東京創元社)
書籍:『刑罰』
(フェルディナント・フォン・シーラッハ,酒寄進一(翻訳)/東京創元社)
マライさんのおすすめは、ユーディト・W・タシュラー「国語教師」
書籍:『国語教師』
(ユーディト・W・タシュラー,浅井晶子(翻訳)/集英社 )
会場には、タダジュンさんが手掛けたフェルディナント・フォン・シーラッハ作品の挿画の原画が展示され、お客さんも興味津々で見入っていました。また、東京創元社の協力で、同社から刊行されている書籍の物販もあり、酒寄さんのサイン会も行われました。サインに使っていた万年筆はシーラッハさんからプレゼントされた品だそうです。
他にもたくさんの楽しい話が飛び出して、あっという間に時間が過ぎてしまったトークイベントでした。酒寄さん、マライさん、スタッフの皆さん、ありがとうございました!