ブックイベントに行ってみた!「ヨーロッパ文芸フェスティバル2020 DAY1」【前編】
第4回「ヨーロッパ文芸フェスティバル」の会場、インスティトゥト・セルバンテス東京
ヨーロッパ文芸フェスティバル2020 DAY1
日時 2020年11月20日(金)18:00~21:00
会場 インスティトゥト・セルバンテス東京
登壇者(敬称略)
1-1 パネルディスカッション:ヨーロッパ文学翻訳事情
内田洋子(ジャーナリスト/イタリア語翻訳者)、木下眞穂(ポルトガル語翻訳者)、宮崎真紀(スペイン語翻訳者)
1-2 ポルトガルとイタリアの作家に聞く~隔離生活と文学的創造性
第1部 ポルトガル アナ・マルガリーダ・デ・カルヴァーリョ(作家)、西崎憲(作家、翻訳家、アンソロジスト、音楽家)
第2部 イタリア アントニオ・モレスコ(作家)、土肥秀行(立命館大学文学部教授)
イベント詳細 https://eulitfest.jp/2020/
こんにちは。本が好き!レビュアーのタカラ~ムこと佐野隆広です。「ブックイベントに行ってみた!」第7回は、インスティトゥト・セルバンテス東京で開催されたイベント「ヨーロッパ文芸フェスティバル2020 DAY1」を前・後編でレポートします。
2020年は、オンライン主体で開催
「ヨーロッパ文芸フェスティバル」は、駐日欧州連合代表部、在日EU加盟国大使館、EUNIC Japan(在日EU加盟国文化機関)の主催で2017年から開催されているイベントです。今年は、新型コロナウィルス感染症拡大の問題もあり、オンラインを主体にしたプログラムが11月20日から27日の期間で開催されました。
今回参加したのは、フェスティバルの初日となる11月20日に開催されたオープニングイベントです。大きくふたつのプログラムで構成されていました。
プログラム
1-1 パネルディスカッション:ヨーロッパ文学翻訳事情
1-2 ポルトガルとイタリアの作家に聞く~隔離生活と文学的創造性
まず、会場となっているインスティトゥト・セルバンテス東京のビクトル・ウガルテ・ファレロンス館長、フェスティバルを主催する駐日欧州連合代表部のアン・ヴァンハウト一等参事官、EUNIC Japan代表のナジ・
1-1 パネルディスカッション:ヨーロッパ文学翻訳事情
ジャーナリストとしても活躍しながら翻訳も手掛ける内田洋子さん
「ヨーロッパ文学翻訳事情」と題したパネルディスカッションは、ジャーナリストで翻訳にもかかわる内田洋子さん、ポルトガル語翻訳者の木下眞穂さん、スペイン語翻訳者の宮崎真紀さんが登壇して行われました。 最初の話題は、自粛期間中にどのように過ごしていたか、どのような本を読んだということから。 宮崎さんは、「気持ちがざわめいて、仕事が進まないし本もなかなか読めなかった」と話します。長い小説は読めず、女性作家のエッセイなどが心地よく安心して読めたという宮崎さんが、自粛期間中に読んだ本として紹介したのは梨木香歩さんの「やがて満ちてくる光の」(新潮社)でした。
宮崎真紀さんが自粛期間中に安心して読めた本
書籍:『やがて満ちてくる光の』
(梨木香歩/ 新潮社/2019年)
翻訳家でありジャーナリストでもある内田さんは、イタリアの毎日の動きを伝えるというご自分の仕事を通じて感じたことをお話されました。ロックダウンされたイタリアでは、「デカメロン」がよく読まれていたそうです。ペストが大流行した1340年代に書かれた「デカメロン」を読むこと、古典に立ち返ることはすごいことだと感じた内田さんは、「デカメロン2020」としてイタリアの若者の行動を報道してきたと話します。それは、厳しい状況の中でとてもつらい作業だったそうですが、救ってくれたのは、今年生誕百周年となるイタリアの児童文学作家ジャンニ・ロダーリの作品「緑の髪のパオリーノ」(講談社文庫)の翻訳でした。毎朝起きるとロダーリの作品を訳し、それから重い時事報道を訳すことを日課にしていたそうです。
ロックダウンが発令されたイタリアで若者たちの行動を集めた記録集
書籍:『デカメロン2020』
(イタリアの若者たち,内田洋子(企画、取材、編集、
ポルトガル語翻訳者の木下眞穂さん(左)とスペイン語翻訳者の宮崎真紀さん(右)
木下さんも、やはり本が読めなくなったと話します。ポルトガルでは、感染が拡大する中で、ノーベル賞作家ジョゼ・サラマーゴの「白の闇」(河出文庫)が注目され、読まれるようになりました。正体不明の感染症による恐怖を描いた作品です。日本では長く絶版状態でしたが、タイミングを合わせたかのように文庫化されました。ただ、木下さん自身は、再読はできなかったそうです。 また、木下さんはジョアン・トルドという作家のエッセイを印象に残った作品にあげていました。100歳のおばあちゃんが「家族が誰も会いに来てくれない。ハグもキスもしてくれない」と悲しむ様子を書いたエッセイを読んで木下さんは、「キスとハグのないポルトガルの人たちが想像できない」と感じたそうです。
突然失明する謎の感染症が蔓延した世界で
書籍:『白の闇』
(ジョゼ・サラマーゴ,雨沢泰 (翻訳) / 河出書房新社/2020年)
続いてそれぞれの翻訳書の話です。
内田洋子さんが翻訳した本
書籍:『緑の髪のパオリーノ』
(ジャンニ・ロダーリ,内田洋子(翻訳) / 講談社/2020年)
内田さんからは、ジャンニ・ロダーリ「緑の髪のパオリーノ」についての話がありました。 ロダーリ作品は、幼い子どもでもわかる簡単な言葉で、とても大切なことを教えてくれると内田さんは言います。「緑の髪のパオリーノ」もはじめは「地味な本かな」と思っていたが、訳しているうちにロダーリワールドともいうべき作品世界に魅了され、「この本を読むと気持ちがリフレッシュする。青空が浮かんでくるようだ」と感じたそうです。
宮崎さんからは、ビクトル・デル・アルボル「終焉の日」(創元推理文庫)についての話がありました。スペイン大使館が年に1回開催する『New Spanish Books』という企画で出会った作品で、一読して「これは訳したい」と思ったそうです。
宮崎真紀さんが翻訳した本
書籍:『終焉の日(創元推理文庫)』
(ビクトル・デル・アルボル,宮崎真紀(翻訳) / 東京創元社/2019年)
日本ではあまり紹介されていませんが、スペインではミステリー作品が数多く発表されています。独裁政権が終わって、英米からエンターテインメント作品がスペインに入ってくるようになった影響が大きかったと宮崎さんは話していました。
木下さんからは、「ポルトガル短編小説傑作選」(現代企画室)について紹介がありました。ポルトガルは1974年まで独裁政権で、それ以降の作品が現代文学に位置づけられるとして、収録作品を選ぶときは「誰が読んでもひとつは面白いと思ってもらえる作品を選ぼう」と考えたそうです。冒頭に収録されている作品「少尉の災難 遠いはるかな地で」の著者マリオ・デ・カルバーリョは、次のプログラムで西崎憲さんと対談するアナ・マルガリーダ・デ・カルヴァーリョさんのお父さんで、ポルトガルではとても尊敬されている作家とのことでした。
ロックダウン中にヨーロッパの各国で感染症をテーマにした本が読まれていたといいます
木下眞穂さんが翻訳した本
書籍:『ポルトガル短篇小説傑作選 (現代ポルトガル文学選集)』
(ルイ ズィンク (編集), 黒澤 直俊 (編集) / 現代企画室 e託/2019年)
後編では、「ポルトガルとイタリアの作家に聞く~隔離生活と文学的創造性」をお届けします。