ブックイベントに行ってみた!「はじめての海外文学スペシャルin大阪」【後編】
「ブックイベントに行ってみた!」第4回後編は、越前敏弥先生と芹澤恵先生に取材したインタビューです。「はじめての海外文学」イベントのきっかけや、「はじめての海外文学フェア」についてお話を伺いました。
(以下文中敬称略)
海外文学が読まれていないという危機感
――まずは、「はじめての海外文学スペシャル」イベントをはじめたきっかけからお伺いしたいのですが。
越前 最初は、私が定期的に開催している『翻訳百景』のイベントとしてはじめました。東京ウィメンズプラザ(注:東京都港区にある都の施設。青山ブックセンターに隣接している)の一番大きい会議室を借りたのですが、150名定員が1週間くらいで満席になってしまいましたね。
1回目の登壇者は20名くらいで、スタイルは今と同じです。第1回スペシャルの様子は、アルク(注:語学の学習教材や研修を提供している『株式会社アルク』)のホームページに動画があります。
※「はじめての海外文学スペシャル取材レポート」 https://www.alc.co.jp/translator/article/tobira/seminar2016_12.html
芹澤 フェア発起人の酒井さん(注:元書店員の酒井七海さん。はじめての海外文学フェアの発起人)がお子さん連れて来てましたよね。キュー振ったみたいに絶妙のタイミングで泣いてた(笑)
越前 俺がしゃべると泣くんだよね(笑)で、それ以降はスペシャルイベントは子連れでも大丈夫ということにしました。
――フェアは、最初酒井さんがはじめられて、vol.2から谷澤さん(注:はじめての海外文学団長の谷澤茜さん。でんすけのかいぬし)が引き継いだわけですが、vol.2から選書を翻訳者さんにお願いするようになりました。
越前 vol.1のときも私を含め翻訳者は参加していましたが、その他に書店員、編集者も参加していました。vol.2になって谷澤さんが引き継ぐときに「どうせならプロに頼もう」ということで今の形になっています。そのときに「翻訳者を紹介してほしい」ということでしたので、池袋(注:谷澤さんは当時池袋の書店に勤務していた)まで会いに行ったと記憶してます。
越前 「はじめての海外文学」の中心となった書店員は3人いて、酒井さんと谷澤さんと山本さん(注:山本菜緒子さん。当時は紀伊國屋書店グランフロント大阪店に勤務)です。3人とも海外文学を担当していたわけではなかったんですよ。まず自分が売りたいからはじめた。あとは海外文学が読まれていないことへの危機感ですね。
※酒井さんによる「はじめての海外文学」フェア開催に関する記事
https://honyakumystery.hatenadiary.org/entry/20150124/1422056827
※谷澤さんがフェアを引き継いだ経緯などに関する記事
http://bit.ly/2vWLd2Q
越前 酒井さんがこのフェアをはじめるときに、選書メンバーになっていたのと、東江さん(注:翻訳家の故東江一紀さん。ドン・ウィンズロウ「ストリート・キッズ」など訳書多数。2014年没)のイベントをやれないかの相談もあって津田沼まで会いに行きました。そこから海外文学フェアやイベントをやりたいと考えている書店員とのつながりができました。
――「はじめての海外文学」フェアは最初から広く開催されていた印象があります。やはり海外文学関連フェアのニーズがあったのでしょうか。
越前 ニーズというよりは危機感かもしれません。
翻訳者がおすすめする、という発想の新しさ
――vol.2から翻訳者の皆さんに選書していただいているわけですが、翻訳者の間でもフェアの認知度はあがってきていますか。
越前 vol.2から今回のvol.5までに参加していただいている翻訳者の数も増えてきていますので認知されているのだと思います(注:選書メンバの推移は、vol.2:52名、vol.3:70名、vol.4:68名、vol.5:86名)。最初は大学の先生が多かったので純文学系の翻訳者が中心でしたが、エンタメ系の翻訳者にも拡大してきています。また、英語以外の翻訳者の参加も増えています。
芹澤 これまでにも海外文学をもっと読んでもらおうといろいろなことをやってきました。何がきっかけになるかわからないですが、このフェアをきっかけに海外文学が一冊でも多く読まれてほしいです
――さきほど、第1回のスペシャルから満席になったというお話を伺いました。実際、毎回イベントの集客がすごいです。
越前 昨年のスペシャルは残念でしたが(注:昨年10月の東京イベントは台風で中止)、開催できていたら過去最高の参加者だったと思います。
芹澤 毎年参加してくれる常連さんもいて嬉しいです。理想を言えば、新しいお客さんにも来てほしいですね。常連さんがはじめての人を連れてきてくれると嬉しいです。
越前 若い参加者が多いのも特長だと思います。学生の参加者も多いです。平均年令は30代くらいになると思います。
書店フェア・読書会を通じて海外文学の輪を広げていく
――フェアに参加してくださる翻訳者も増えていて、イベントの集客も順調です。フェアとしての課題は何があるでしょうか。
越前 書店店頭でのフェア拡大が課題です。書店によって事情は違うと思いますので、推薦書を全点置くのは難しいかもしれませんが、一部だけ置いていただくのでも大丈夫なので、1店でも多くの書店に参加してほしいと思います。
――個人で経営されている小さい本屋でも、フェアのフリーペーパーを見せると興味を持ってくれるところも多いです。そういう本屋は全点は難しくても一部をセレクションして置くなどできるかもしれません。例えば、推薦書から翻訳者が選んだ10冊のような。
芹澤 『越前セレクション』みたいな感じですね。
越前 イベントの課題としては、東京、大阪以外の地方でも開催したいです。東京や大阪のような大規模でなくても、地元在住の翻訳者も入れて2,3人の登壇者で、参加者2,30人くらいの小規模なイベントや読書会ができればいいなと思います。
芹澤 「はじめての読書会」の地方出張版とかいいですね。
――「本が好き!」では毎回「はじめての海外文学応援読書会」を開催しています。こうした読者の取り組みについてはどうですか。
越前 ありがたいとしか言えないですね。逆に、私たち翻訳者が参加してくれている読者の皆さんにできることがあれば言ってほしいと思います。御礼のコメントをおくるとか。
――読者としては、自分が書いた作品の感想に翻訳者からコメントをもらえると嬉しいと思います。その他、読者に向けて何かメッセージはありますか。
芹澤 やはり本を買ってほしいですね。というか、まずは読んでほしいです。フェアに選書されている本は、どれも読んで後悔させない作品だと思っています。読んでもらえたら、また違った発見もあると思います。
越前 読者の皆さんと直接交流できるイベントや読書会にも可能な限り参加できればと思っています。「イベントやりたい」「読書会やりたい」という要望があれば「はじめての海外文学」のメールやTwitterのメッセージであげてほしいと思います。
芹澤 イベントは定着させていきたいですね。毎年この時期には「はじめての海外文学」のイベントがあると思ってもらえるようにしたいです。
――これから、vol.6、vol.7とフェアやイベントを続けていくことが大事ということですね。今日はイベント前のお忙しい中、時間をいただきましてありがとうございました。
越前・芹澤ありがとうございました。
以上、越前先生、芹澤先生のインタビューをお届けしました。イベント本番前の貴重な時間を取材にあてていただき、ありがとうございました。
終わりに
今回で2回目になる「はじめての海外文学スペシャルin大阪」は、満員のお客さまが参加され、昨年以上に盛り上がったイベントになりました。イベントの開催に尽力されたはじめての海外文学スタッフの皆さん、梅田 蔦屋書店のコンシェルジュ、河出さんを始めとするスタッフの皆さん、そして何より登壇された8名の翻訳家の皆さん、お疲れ様でした!