今月の一冊は、大人こそ読むと得るものの多い児童文学『風にのってきたメアリー・ポピンズ』(岩波書店)
今月の1冊、『風にのってきたメアリー・ポピンズ』(岩波書店)
書籍:『風にのってきたメアリー・ポピンズ』
(P.L.トラヴァース, 林容吉 (翻訳) / 岩波書店)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/45448/
選書理由
昔読んだことがある児童文学ですが、改めて読み直すと発見がたくさんありました……。今は子供たちではなくメアリー・ポピンズに感情移入してしまいますね。
ブックレビュー
メアリー・ポピンズという名前を聞いたことのある方は多いだろう。
しかし実際に彼女の物語を文章で読んだことはない、という方が大半なのではないだろうか。ディズニーのアニメ映画からイメージするユーモラスさとは裏腹に、文庫本で読むメアリー・ポピンズの姿は、想像以上に「大人」の役割を担っている。しかしそれは決してマイナスではない。彼女は、大人として子どもたちに何を与えるべきか? 何を伝えるべきか? をその姿から教えてくれているからだ。
児童文学ではあるが、大人こそ読むと得るものの多い読書体験ではないだろうか。アニメ映画とはまた違った小説のメアリー・ポピンズは、私たちに「大人が贈ることができるプレゼント」の正体を伝えてくれる。
『風にのってきたメアリー・ポピンズ』は、桜町通りのバンクスさん一家のもとへ、こうもり傘につかまって空からやってきた、メアリー・ポピンズと子どもたちの交流を描いた物語である。短編連作集のような形で、さまざまなエピソードが収録されている。
メアリー・ポピンズは今でいうベビー・シッターのような存在で、子どもたちの面倒を日々見てくれる。が、彼女は子どもたちにとって、ただ優しいだけの甘えられる大人、というわけではない。どちらかというと不機嫌になる日も多いし、皮肉も言うし、だめなことはだめだと伝える、きわめて冷静な仕事人なのである。
子どもたちの世話をしてくれるファンタジーな大人、というと白衣の天使のような女性を思い浮かべてしまうかもしれない。だけどメアリー・ポピンズは、決して微笑んでいるだけの聖母ではない。むしろ子どもたちの思い通りにならないところが魅力的ですらある。
しかしメアリー・ポピンズは、皮肉やなだけではない。たとえば本書で描かれたクリスマスのエピソード。他人へのプレゼントを選んでいたマイアは、自分へのプレゼントを何も買っていない。そんなマイアを見かねたメアリー・ポピンズは、自分の新しい手袋を、さっとマイアにあげるのだった。
……こうしてあらすじだけ書くと、なんだか単純な話に思えるのだが。実際に本でこのエピソードを読むと、なんともいえずきらきらしたエピソードに見えるのだ。そう、誰かに贈り物をすることの価値を本書は私たちに伝えてくれる。
大人だって、誰かに贈り物をするのは、いいものだ。――そんな単純なことを、きらきらした筆致で教えてくれるから、大人も本書を読むと感動する一面があるだろう。
昔アニメ映画で見たことのある人もない人も、小説でメアリー・ポピンズに出会いなおしてみるといいと思う。きっと誰かに、何かを贈りたくなるから。
この本を読んだ人が次に読むべき本
書籍:『はてしない物語』
(ミヒャエル・エンデ, 上田真而子 (翻訳), 佐藤真理子 (翻訳)/ 岩波書店)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/9901/
書籍:『クローディアの秘密』
(E.L.カニグズバーグ, 松永ふみ子 (翻訳)/ 岩波書店)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/3612/
こちらはアメリカ児童文学の傑作。メトロポリタン美術館に家出しに行く、というシチュエーションだけでもわくわくしますが、子供の内面が丁寧に描かれているからこそ大人が読むと「そんなこと考えていたなあ」と共感してしまうかも。
Kaho's note ―日々のことなど
とうとう最終回を迎えた本連載。なんと61回(!)にもわたる、私の中での最長連載でした。読んでくださった皆様、本当にありがとうございました! たくさんの本を紹介できて、とてもとても楽しかったです。またどこかで会えますように!!
三宅香帆さんが選んだ1冊は、本が好き!月間ランキングから選出いただいています。
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