今月の一冊はブラッドベリの『何かが道をやってくる』
今月の1冊『何かが道をやってくる』
書籍:『何かが道をやってくる』
(レイ・ブラッドベリ,大久保康雄(翻訳)/東京創元社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/47400/
選書理由
『何かが道をやってくる』
私はあまりSFを読むほうではないのですが、例外的に、ブラッドベリのことは大好きなのです。なつかしくて、やさしくて、そして、こわい。まるで昔読んだ絵本のように、深夜にそっとひらきたくなる小説が多いんですよ。
ブックレビュー
何かがやってくる。
何かが来たら、街が、変わってしまう。自分の見ている風景が、自分たちの周りにいる大人が、そこにあるはずの日常が、異常なものになってしまう。
そいつのことが、怖いけど、でも、気になってしまうのだ。
私が小さかった頃、「サーカス」というものに異様な憧れを抱いていた。
だって絵本をひらいても、外国の児童小説を読んでも、サーカスは特別な場所として描かれていたのだ。サーカスを見に行った夜に現れる特別な時間とか、サーカスのライオンの話とか、街を渡り歩くサーカス団の仲間のエピソードとか。そんな話を読んでは、憧れを募らせていた。
とくに、移動式のテントに入るときの描写なんて! 「いいなあ、素敵だなあ」とうっとりしながら、サーカスもなにもない自分のいる場所から逃避したくなっていたのだろう。
たしか一度、親にサーカスへ連れて行ってもらったのだけど。舞台は遠く、「わーすごい」とぼんやりショーを楽しんで、終わってしまった。
結局サーカスの夜は、特別なことなど、なにも起こらずに。
大人になってもやっぱり、サーカスには憧れを抱いている。とくに『何かが道をやってくる』みたいな小説を読んでしまっては。
あるアメリカの田舎町に住む少年・ジムとウィル。彼らの街へ、ある日、カーニバル団がやってくる。
最初はカーニバル団がやって来たことに喜んでいたふたりだったが、次第に「なんかあいつら、あやしい」と思うようになる。だけど大人は気がつかない。カーニバル団は、日々、賑わいを見せている。
しかしある日、彼らの担任の先生が、とあるおそろしい目に遭った。
そう、回転木馬に、秘密があった。
いや~~これぞブラッドベリ、とにこにこしたくなるような、美しい小物の設定、やたらと迫ってくる恐怖、少年たちの放課後、それから父息子の物語。
「私の好きなブラッドベリだ」と微笑みたくなる小説なのだ。
ブラッドベリの面白さは、「それが一体なんで怖いのかわからないけれど、でも、一旦それを手にしたら終わってしまう気がする」という恐怖を美しく描いているところにある。
ブラッドベリの描く恐怖は、いつも、目に見える形をとらない。
いや、本作『何かが道をやってくる』も、たとえばカーニバルとか回転木馬とか破壊や逃亡のシーンみたいな直接的・映像的な場面はあるのだけど。でもそれ以上に、「若さと老い」とか「父息子の血筋」とか「なんとなくこわいと思う感情」とか、形をとらないものを、小道具や設定に落とし込んで読ませるのが上手だ、と思う。
小説だからこそ味わえる、ブラッドベリ流の、少年時代の風景。
ブラッドベリにしか描けない少年時代が、ひとつの夜が、夢が、あるのだと思う。
この本を読んだ人が次に読むべき本
書籍:『たんぽぽのお酒』
(レイ ブラッドベリ(著),北山克彦(翻訳)/晶文社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/82493/
ブラッドベリ入門におすすめしたい小説。少年時代の夏を、小説のなかだと体験できるんだよ! すごくなつかしくて贅沢で、泣きたくなる物語なのだ。
書籍:『華氏451度』
(レイ・ブラッドベリ,伊藤典夫(翻訳)/早川書房)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/219639/
おそらく一番有名なブラッドベリの小説。本好きなら「そんなディストピア!!」と叫びたくなる設定にご注目あれ。
Kaho's note ―日々のことなど
最近、やたら漫画を読んでいます。連載されている漫画を追いかけるのも楽しいですが、新しく好きな漫画家さんや好きな作品に出会えることもめちゃくちゃ嬉しい楽しい! ちなみにいまは西山しのぶさんの漫画にハマっています。『下山手ドレス』というエッセイ漫画シリーズが最高です。
三宅香帆さんが選んだ1冊は、本が好き!月間ランキングから選出いただいています。
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