今月の一冊は、おもちゃ箱のような面白さが詰まった『円 劉慈欣短篇集』(早川書房)
今月の1冊、『円 劉慈欣短篇集』(早川書房)
書籍:『円 劉慈欣短篇集』
(大森望(翻訳), 泊 功 (翻訳), 齊藤正高(翻訳)/ 早川書房)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/302774/
選書理由
『三体』ブーム以降、一気に身近になった中国SF小説。今回は、三体の作者の書いた短編集! と知って、手を出してみました。
ブックレビュー
SFだけは、頭のいい人しか書けないよな……と敗北感でいっぱいになることがある。何に負けたって、うーん、なんだろうか。作者と一体私は何を張り合っているのだろうか。私はただの一読者なのに。
しかし、SFを読む醍醐味というのは、案外そのあたりにあるのではないか、と思う時がある。つまりは、「やられたっ」と言いたいのである。
うわあ、負けた、頭いい~~。なんでこんなの思いつくんだろ~~~。
読み終わったあと、ページを閉じた時、思いっきりそうつぶやきたい。
SFを読んだからには。
最近その欲求をいちばん満たしてくれたのが、大人気SFシリーズ『三体』の作者である、劉慈欣の短編集『円』である。
本書は、さまざまな設定のSF作品が収録された短編集だ。
なんだか読んでいて不思議だと思うのが、どこか、作品ごとに今まで読んできたSFが脳裏をよぎること。
たとえば筒井康隆。たとえば藤子・F・不二雄。たとえば星新一。
私はそんなに熱心なSF読者ではないのに、なぜか小説ごとに、頭に浮かぶ作家は異なる。つまり「あ、あの人っぽい話だ」と思うテイストが、毎回異なるのだ。十三篇も収められているのに、そのどれも、テイストが少しずつ違う。そしてどれも、すごく面白い。
たとえば、李白の身体に神が取り憑いた!? しかしお酒を飲むと彼はどうしても詩が書けない、なぜなら泥酔してしまうから……。だとすればテクノロジーをもって李白を超えるしかないっと宇宙人が決意する話。
たとえば、山村で清く正しく子どもたちを教えてきた教師の話かと思いきや、いきなり宇宙戦争に話がぶっとぶ物語。
たとえば、もうひとつのオリンピックが、本当の「平和のため」――戦いの解決手段として開催されることになる話。マラソン選手のシニの運命が私たちの目に飛び込んでくる!
などなど、あらすじを説明しただけで「なんだそれは」と前のめりになってしまうような、面白い作品たちなのである。
『三体』も、思いがけない風呂敷を広げる作品だったけれど、本書を読むと、この作家の風呂敷はまだまだ広いことが分かる。なんせ短編を集めただけでも、こんなにいろんな発想がおもちゃ箱みたいに詰め込まれているのだ。そりゃまだまだ広い風呂敷が、というか、ブラックホールのごとく彼の世界はきっと広がっているよな、と言いたくなる。
なんでこんな話思いつくんだろ、負けた気分だ、と言いながら、本を閉じるときにはにこにこ笑ってしまう。そんな短編集だ、気分を晴らしたいときに読んでほしい!
この本を読んだ人が次に読むべき本
書籍:『三体』
(劉慈欣, 大森望(翻訳), 光吉さくら(翻訳), ワン チャイ(翻訳) / 早川書房)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/279996/
書籍:『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』
(ケン・リュウ(編集),中原尚哉(翻訳), 大谷真弓(翻訳), 鳴庭真人(翻訳), 古沢嘉通(翻訳)/ 早川書房)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/261809/
突拍子のない設定に溢れた中国SFを集めた一冊。ディストピアあり、AIあり、遺伝子組み換え技術ありと、さまざまな設定を楽しめる。好みの作家を見つけるのにもぴったりかも。
Kaho's note ―日々のことなど
2月、寒かったですね……この記事が世に出るころには少しは暖かくなってるでしょうか。寒いと気分もダウナーになるので良くないです。せめて寒い時期と、日照時間が少ない時期をずらしてくれないかな!? と毎年思うのですが、全然理系じゃない人の発想だな……と毎年自分につっこんでいます。
三宅香帆さんが選んだ1冊は、本が好き!月間ランキングから選出いただいています。
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