今月の一冊は、27人と1匹が主役のパプ二ングコメディ『ドミノ』(角川書店)
今月の1冊、『ドミノ』(角川書店)
書籍:『ドミノ』
(恩田陸 / 角川書店)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/3313/
選書理由
昔読んで、「こんなに面白い小説があったのか!」と衝撃を受けたことを今でも覚えています! 笑えて、一気に読めるエンタメ小説。これぞエンターテイメントだと思わせてくれる一冊です。
ブックレビュー
夏休みに入って、録画して熱心に見ていたテレビ番組がある。『映像の世紀』という番組シリーズだ。その時代のキーとなる映像をもって、20世紀の世界の歴史を追いかける。言わずと知れたNHKのドキュメンタリー番組である。
たまに再放送をしているので、断片的に観たことのある回はあったのだが、今回はじめて最初から最後までとおして観ることができた。たとえばはじめてみるような第二次大戦やベトナム戦争の生々しい映像、あるいはすでにみたことのあるケネディ暗殺や月面着陸の映像など。私がみていて意外に思ったのが、そこに映されていた大半の映像が、大衆の姿だったことだ。 歴史の教科書をめくっていると、どうしても世界は何人かの権力者や革命家によって動かされたように見える。20世紀といえば、たとえばヒトラー、たとえばガンジー、たとえばチャーチル。そういう、いわゆる歴史上の有名人とひとくくりにしたくなるような人々が、歴史を決定したように見える。
しかし実際に映像をみていると、当たり前だが有名人よりも無名の大衆のほうがよっぽど数が多いわけで。当たり前のようなことだが、世界の大半は、大衆によって構成されているのだ。いや、当たり前っぽいけど。
世界を、何人かの有名人で捉えようとすることは簡単だ。ヒトラーが暴走した、ガンジーが革命を成功させた、チャーチルが政治的決定を行った。しかし本当は、彼らが登場するもっと手前のところに、無数の、無名の群衆が、そこにいたのである。歴史に名を残す人はたまたまそのポジションに選ばれただけであって、その人がいてもいなくても、もしかしたら群衆がそこにいれば同じような歴史を辿ったのではないか……なんて妄想を重ねてしまう。
無名の群衆の力、いまはちょっと、侮られすぎではないだろうか。番組をみてそう感じたのだ。
前置きが長くなったが、恩田陸の『ドミノ』というエンタメ小説を読むとき、いつも「ああ、この人は群衆がいちばん物語をつくることを知っているんだな」と感じる。
重たい前置きを書いてしまったが、『ドミノ』は最初から最後まで、エンターテイメントに徹した、笑えるハプニングコメディ小説だ。登場人物は27人と1匹。彼らは偶然、同じタイミングで東京駅にいた。そのとき、ドミノが倒れるように、ひとりひとりの事情が絡み合い一大ハプニングを起こすことになる。
あの伏線も、あのキャラ設定も、すべてラストに繋がっていく様子は、快感としか言いようがない。ぜひ読んでみて、この小説の面白さを感じてほしい。
この小説は、主人公というものがほとんど存在しないと言っていい。ある意味、みんなが主役だ。27人と1匹という小さな「群衆」は、それぞれ自分の事情を抱えて生きて、しかしその結果ある事件を引き起こすことになる。
物語というと、主人公が存在するのが普通だ。しかし作者は、誰を中心ともせず、登場人物それぞれの中心が絡み合うような物語をつくる。
世界って、実はこういうものなんじゃないか? 私たちは、群衆が引き起こす物語を、もっと知った方がいいんじゃないか? そんなことをつい考えてしまうような、「群衆」コメディ小説なのだ。ぜひ一読をおすすめしたい!
この本を読んだ人が次に読むべき本
書籍:『Q&A』
(恩田陸 / 幻冬舎)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/356/
書籍:『六番目の小夜子』
(恩田陸 / 新潮社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/11957/
恩田陸は「群衆の暴走」をテーマに小説を書くことがたまにあるのだが、デビュー作からその片鱗は見えていた。地方のとある高校を舞台に、退屈と噂を持てあました主人公たちの謎を描く。
Kaho's note ―日々のことなど
夏休み、仕事せずにひたすら積読を消化していたら、8月後半の締め切りラッシュに間に合わず冷や汗をかいています……。完全に夏休みの宿題を8月31日に泣きながらやる学生になってしまいました。大人になっても夏休みの宿題がらくらくこなせないとは。悲しいものです。がんばります。
三宅香帆さんが選んだ1冊は、本が好き!月間ランキングから選出いただいています。
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