今月の一冊は、『江戸の骨は語る――甦った宣教師シドッチのDNA』(篠田謙一 / 岩波書店)
今月の1冊、『江戸の骨は語る――甦った宣教師シドッチのDNA』(岩波書店)
書籍:『江戸の骨は語る――甦った宣教師シドッチのDNA』
(篠田謙一 / 岩波書店)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/296329/
選書理由
よしながふみさんの漫画『大奥』を読んだところだったので、江戸時代の遺骨が見つかって……という概要に心ひかれてしまいました。読んでみると研究に興味ない人にとっても面白いのではと思う箇所がたくさん!
ブックレビュー
「この骨は誰のものか?」
これだけ聞くと、荒唐無稽な問いだと思う。
だって骨だ。しかも、300年くらい前の人の骨。その骨が、誰の骨かなんて……分かるはずがないじゃないか、と言いたくなる。
でもそれを解き明かそうとする人たちがいる。
本書は、2014年に東京で見つかったある人骨を鑑定した体験を綴った、人骨研究の最前線を伝える本である。
2014年、東京の文京区で、三体の人骨が見つかった。発見場所は史跡「切支丹屋敷跡」。なんとこの人骨は、江戸の宣教師シドッチではないか? DNAの解析が始まる。
シドッチは、藤沢周平の小説『市塵』に登場したりもしている、有名なイタリア人宣教師である。キリシタン禁制の日本へ最後に潜入した宣教師とも言われていて、新井白石に蘭学を伝えたことでも知られている。シドッチがいなければ日本の蘭学知識はもっと遅れていたのでは? と言われるほど、江戸時代の学問や研究に多大な影響を及ぼしたという。
そんなシドッチは、幽閉された切支丹屋敷で衰弱死する。彼の人骨が、300年経って発掘されたのである。
素人からするとそもそも発掘された人骨のDNA鑑定って可能なの? どうやってやるの? と、そこから疑問なのだが、それを丁寧に教えてくれるのが本書だ。
たとえばDNAから日本人ではないことが判明したり(ミトコンドリアDNAというものがあることを私は本書ではじめて知った)、文献証拠と核ゲノムの解析を突き合わせてどうやら彼であるらしいと証拠づけたり、さまざまなアプローチから骨の正体を明かす。
なんと欠けている鼻すら復元して、最後には顔まで再現してしまうのだから、科学の発展はすごい、と驚く。シドッチ自身もまさか300年後に日本の博物館でじぶんの顔が展示されるとは思ってもみなかったんじゃないか。
そんな人骨のDNA解析研究手法も面白いながら、本書のユニークなところは、そこにかかる予算や資金繰りまで書いてくれているところ。「DNA研究は、金の切れ目が縁の切れ目」と著者も述べているとおり、技術の精度が上がるほど、かかる金額は多大になってゆく。
アカデミックの世界はどこもお金が厳しいというけれど、DNA解析も例外ではないらしい。そんな研究者の苦悩も知ることができる一冊だ。
こうやって何かを解き明かそうとする人の考えを垣間見ると、なんとなく、世界の広さや深さに触れられたような気がして、嬉しくなる。
科学や研究の世界に興味がある人にも、江戸時代に興味がある人にも、おすすめの本である。
この本を読んだ人が次に読むべき本
書籍:『理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!』
(西浦博, 川端裕人(聞き手) / 中央公論新社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/294831/
書籍:『旅人 ある物理学者の回想』
(湯川秀樹 / 角川学芸出版)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/257568/
理系の研究者エッセイだと、これが好き。誰もが知るノーベル物理学賞受賞者の湯川先生が綴った随筆集。文章がとても美しくて、物理学者の目を通した世界を垣間見ることができる一冊。
Kaho's note ―日々のことなど
だいぶ暖かくなってきて、過ごしやすい気候ですが、みなさまお元気でしょうか! 私は冬がおわったのでかなり元気になりました。引き続き在宅勤務が続いているのですが、加湿器も暖房器具もいらない季節になると、電気代が安くなって嬉しいです! 一年中春ならいいのに!! こんなこと言うと花粉症の人に怒られそうですね……。
三宅香帆さんが選んだ1冊は、本が好き!月間ランキングから選出いただいています。
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