今月の一冊は、SNS世代の探偵役が活躍する『優等生は探偵に向かない』(東京創元社)
今月の1冊、『優等生は探偵に向かない』(東京創元社)
書籍:『優等生は探偵に向かない』
(ホリー・ジャクソン 服部京子(翻訳) / 東京創元社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/309067/
選書理由
年末年始で時間のあるとき、ぜひ現代的な海外ミステリに手を伸ばしてみるのはどうでしょう? 来年は海外ミステリにハマる一年になるかもしれません!
ブックレビュー
名作と呼ばれるミステリ小説を読んでいると、「これがもし現代の話だったら、名探偵は全く違う謎の解き方をしているんだろうな……」と思うことがよくある。
たとえば謎の失踪。あるいは密室での不可思議な殺人事件。いつ消えたのか分からない被害者の行方。それらについて、たとえば被害者がSNSを使っていたら? まったく話は別になって来るんじゃないか。少なくともSNSを追いかければ、「謎」の余白は少なくなるように思う。名探偵の追いかけるアリバイも、もしかしたら怪しい人物をずらりと並べて話を聞くんじゃなくて、SNSでコンタクトを取ることが先決になるのかもしれない。……もちろん、そんなミステリが面白いかどうかは別だが。
そんな妄想をしてみることが私はよくあるのだが、このシリーズを読んだとき、「おお、とうとう新世代のミステリが登場したのか!」と新鮮な気持ちで胸が満たされた。シリーズの主人公こと名探偵役は、高校生のピップ。シリーズ一作目の『自由研究には向かない殺人』は彼女がとある殺人事件の謎を解くまでの物語だった。
シリーズ二作目となる本書は、ジェイミーという青年が突然失踪したところから物語が始まる。ピップの友人の兄である彼は、なぜいなくなってしまったのか? 消えた兄を探して、ピップはSNSやポッドキャストを駆使するのだった。
この物語の特徴は、なんといってもSNS世代の探偵役が活躍すること。ピップの正義感溢れる爽やかなキャラクターも魅力的ではあるが、それ以上に現代の若い世代が熱中するツールがそのままミステリの鍵になっているところが、読んでいて新しいと感じる点ではないだろうか。しかもZ世代のピップは、決して日常のなかでひっそり謎を解くようなことはしない。自分のネット上の知名度を利用して謎を解いてゆくのだ。このあたりの行動も、今っぽいなと感じる人は多いのではないだろうか。
ジュブナイルのミステリ小説といえば、日本であれば「怪人二十面相と少年探偵団」など、さまざまな傑作がこれまでにも生み出されてきたジャンルだ。時代にあわせて、新しい若き探偵役が生まれることによって、ミステリ小説というジャンル自体のファンもまた増えてゆくのだろう。
しかも小説を読み進めると、単なる爽やかなミステリで終わることはなく、人間関係の葛藤も描かれていることがよく分かる。海外のミステリ小説を読んだことのない10代に、海外ミステリの入門書として、ぜひ読んでほしい一冊になっている。
この本を読んだ人が次に読むべき本
書籍:『そして誰もいなくなった』
(アガサ・クリスティー, 青木久惠 (翻訳) / 早川書房)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/152161/
書籍:『春にして君を離れ』
(アガサ・クリスティー,中村妙子(翻訳)/ 早川書房)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/312810/
「海外ミステリってなんだか敷居が高いし苦手かも、でも読みたい気持ちはあるんだけど」というあなたにおすすめしたいのはこれ。探偵も謎解きもないけれど、たしかに背筋が凍るミステリがそこにあるのです。
Kaho's note ―日々のことなど
今年もこの連載で書評を読んで下さった皆様、本当にありがとうございました!! 気づけば私の連載記事のなかで最長になっています……。来年もたくさん面白い本を読めるといいな。あなたにとっても素敵な一年になりますように!
三宅香帆さんが選んだ1冊は、本が好き!月間ランキングから選出いただいています。
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