今月の一冊は、山尾悠子という人の不可思議さと魅力に取り憑かれてしまうエッセイ『迷宮遊覧飛行』(国書刊行会)
今月の1冊、『迷宮遊覧飛行』(国書刊行会)
書籍:『迷宮遊覧飛行』
(山尾悠子 / 国書刊行会)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/313412/
選書理由
幻想小説の担い手・山尾悠子さんの初のエッセイ集! ということで、どんなエッセイを書くのか知らないままドキドキしつつ読みました!!
ブックレビュー
小説家のエッセイを読むというのは、下世話な自分が存在していることのなによりの証である。
ぶっちゃけ、好奇の目しかない。野次馬根性丸出しといっても過言ではない。小説の神としてしか存在していなかったその人物が、実はどんな人なのか? どういうエキスを吸ってこんな小説を書くに至ったのか? 性格や人間関係や好きな食べ物に至るまで、興味を引くのはミーハーな関心と「できれば親近感が持てたらいいのに」という下心である。
山尾悠子、という作家名から連想するのは、現実離れした世界だ。
日本の現代に存在している〈幻想文学〉の旗手である山尾悠子は、なかなかその全貌を明かさない。そもそもこれまでエッセイ集も出していなかったのだ。1970年代にデビューしてから、ずっと。最近はAIが小説を書くというが、山尾悠子の実在してなさそう感といえば、AIよりももっと「実は山尾悠子という書き手もフィクションでした」と言われて納得のいく存在である。山尾悠子の小説を読んだことがない人には私が何を言っているのか分からないかもしれないが、まあ、そんな人はまず小説を読んでからこのエッセイを読んでくれと言いたい。
そんな「実在してなさそうな」作家こと幻想作家・山尾悠子の初エッセイ集は、読んでみると、「うわ、たしかに山尾悠子だ、ていうか実在してたんか」と思ってしまう。
エッセイの中では、彼女の作家としてのルーツが明かされる。倉橋由美子、金井美恵子、塚本邦雄、そして澁澤龍彦。山尾悠子らしさがその作家たちから生み出されていることをひしひしと実感する作家たちであるが、それを山尾が語るのはまた格別の面白さがある。とにかく小説については偏愛が強く、お気に入りの小説は7~8回読み返すらしい。こうして山尾という作家ができあがったのか、と感嘆する。
しかし読書エッセイのほかのささいなエピソードは、山尾の人間らしさ、つまり「実在している」ことがひしひしと感じられて、なんだか不思議な気分になってしまう。いや、もっとはっきり言ってしまうと、山尾という作家をより好きになってしまうのだ。もちろん作家の人間性なんて作品を前にすれば吹き飛んでしまうのだが、しかし読者とは短絡的なもので、人間らしい側面が作家に見えると、なんだか面白いなあ素敵な人だなあと思えてきて、その作家自身も好きになってしまうのだった。
収録されている初期の掌編小説たちは、やはり幻想的で不可思議で掴めないがどこか自分と近しいものを感じてしまう山尾悠子ワールドそのもの。小説もエッセイもあわせて読めば、山尾悠子という人の不可思議さと魅力に取り憑かれてしまうだろう。
この本を読んだ人が次に読むべき本
書籍:『歪み真珠』
(山尾悠子 / 筑摩書房)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/276692/
山尾悠子入門におすすめな小説集。どれも絵画や神話から着想を得た、美しい幻想物語ばかり。最初から読まなくても、気になった小説から読んでみてもいいのでは。
書籍:『山尾悠子作品集成』
(山尾悠子 / 国書刊行会)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/8706/
Kaho's note ―日々のことなど
京都は桜が見ごろになってきて、嬉しい限り! 私は今くらいの季節が一番好きですね……。京都に引っ越してきて初めての春、ひさしぶりの京都の桜を堪能します。お花見もどこかでできたらいいなと画策しているところです。
三宅香帆さんが選んだ1冊は、本が好き!月間ランキングから選出いただいています。
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