今月の一冊は、2021年小説界の一大ニュースをさらった『三体3 死神永生』(早川書房)
今月の1冊、『三体3 死神永生』(早川書房)
書籍:
『三体3 死神永生 上』
『三体3 死神永生 下』
(劉慈欣、大森望、ワンチャイ、光吉さくら、泊功 / 早川書房)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/298655/
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/298657/
選書理由
とうとう完結した『三体』シリーズ。2021年小説界の一大ニュースだったのではないでしょうか。完結作が出版された時、本屋にずらっと『三体』シリーズが並んでて、壮観でした。
ブックレビュー
『三体』が終わっていちばん驚いたのは、こんなスケールにまで至る話だったのか! ということだった。
そもそも『三体』シリーズとは何か。オバマ元大統領がお気に入りの本として挙げ、一躍有名になった中国SF小説である。
シリーズ第一作『三体』は、中国の天才研究者である葉文潔の物語から始まる。彼女は父親を文化大革命の内ゲバによって亡くしていた。ある日、彼女のもとへ、とある軍事基地からの誘いがやって来る。そこは、実は「三体プロジェクト」と呼ばれる計画が進行していた。父を亡くし自暴自棄になっていた葉文潔は、自分の力をそこで使うことに決める。
シリーズのタイトルでもある「三体」とは、地球とは異なる惑星のことだ。そこには「三体人」、つまり地球からすると宇宙が住んでいる。三体星人が地球を侵略しようとするところを、なんとか軍人や研究者たちが食い止めようとする……その様子をものすごい年月のスパンで描くのが、三体シリーズと言う物語だった。
今年出版された『三体Ⅲ 死神永生』つまりシリーズ第三巻では、なんと宇宙のはじまりとおわりに至るまで、「三体」の理論で説明してしまおう、という試みがなされていた。物語の随所で、世界史の教科書をめくっているような気分になってくる。第一巻で文化大革命やっていたころがもはや懐かしくなるほど、宇宙の終わりまでこの物語は射程に入れていたのだ。
私はそんなにSF小説を読まない(というか読めない)人間なのだが、こういうSF小説を読むと、作者の思想が全面的に出ているところにぐっときてしまう。つまり、作者がいかに世界を捉え、本当は世界はどうあるべきか? と考えている様子が表現されるところがいいなと感じるのだ。『三体Ⅲ 死神永生』を読むとわかるが、作者はかなりロマンチックな展開を好む。意外にも、「他者同士が出会う限り愛は存在するし、愛も友情も生まれるはず」という思想が『三体』シリーズには全面的に出ているように思う。しかし同時に、世界はやはり厳しいものであり、生き残る、絶滅されずに終わるのはほとんど無理なシビアなものである、とも言っている。ラストシーンは、ネタバレになってしまうけれど、「容赦ないな作者!?」と言いたくなる場面なのだ。その、ロマンチックさとシビアさのアンバランスさこそが、『三体』の魅力に思えるし、ここまでファンが多い理由なのかな、と私は思う。
SF小説は、世界観から作者がつくるからか、作者の思想が全面的に出やすい。ストーリー展開だけでなく、その世界観そのものを面白がりながら読んでほしいシリーズである。
この本を読んだ人が次に読むべき本
書籍:『10月はたそがれの国』
(鈴木博毅 / ダイヤモンド社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/47403/
書籍:『侍女の物語』
(マーガレット アトウッド, 斎藤英治 (翻訳) / 平凡社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/46286/
アトウッドの作品をSFと呼んでいいかどうかはちょっと議論の巻き起こるところですが、とりあえずアトウッドも私の好きなSF小説家です。ジェンダーの問題に興味がある方は是非読んでみてほしい一冊。もちろん小説としても傑作です。
Kaho's note ―日々のことなど
きゅ、急に寒くなりましたね。暑いな今年は、と油断していたら、まさかの気温急降下。ついていけません。何がつらいって突然お布団から出られない気温になってしまったこと。睡眠欲との戦いが今年も始まります。応援してください。
三宅香帆さんが選んだ1冊は、本が好き!月間ランキングから選出いただいています。
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