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三宅香帆の今月の一冊 the best book of this month

今月の一冊は、どこを切り取ってもおいしそうなエッセイのアンソロジー『にっこり、洋食 おいしい文藝』(河出書房新社)

今月の1冊、『にっこり、洋食  おいしい文藝』(河出書房新社)

書籍:にっこり、洋食  おいしい文藝
(江國香織 村上春樹 森茉莉 阿川佐和子 他/ 河出書房新社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/310518/

選書理由

食べ物に関するエッセイがそもそも好きなので、アンソロジーとして出版されてたんだ! という驚きをもって選びました。

ブックレビュー

洋食、というものをはじめて認識したのは、もしかすると本の中かもしれない。
いや、たとえばオムライスやコロッケやナポリタンやハンバーグやビーフシチュー。洋食と呼ばれるメニューそれ自体は、たしかに食卓をはじめとした家の食事で知った。
が、それらをまとめて「洋食」と呼ぶのだ、そしてそれはお店で食べるととても甘美なものなのだ、と教えてくれたのは、私にとっては本の中だったように思う。
地元には洋食屋さんなんてあまりなかったし、ハンバーグやコロッケはありふれた食事のおかずのひとつだったからだ。もちろん大人になってから、それらは全くありふれてなくて、母親の手間の結果だったことを知るんだけど。
洋食屋さんで食べる洋食の甘美さを知ったのは、たしか、小さいころに読んだ児童文学のなかだったような気がする。


今回紹介するエッセイのアンソロジーは、「洋食」についての作家たちのエッセイが集められた一冊だ。
その書き手のラインナップは多岐に渡り、村上春樹や江國香織といった現代作家から、ヤマザキマリといった漫画家、そして谷崎潤一郎や獅子文禄などの文豪まで、多様な人材がそろっている。
それぞれの筆致によって綴られる「洋食」にまつわるエッセイは、どこを切り取ってもおいしそうで、なんだか久しぶりに洋食屋さんに行きたくなるものばかりだ。

なかでも印象的なのが、コロッケやカキフライといった揚げ物について語る人の多さである。 私は洋食ときいてまず思い浮かぶのはなんとなくオムライスやナポリタンなのだが(家であんまり食べなくて「洋食屋さんのメニュー」というイメージが強いメニューだからだろう)、揚げ物について語る作家は意外と多い印象だ。
たとえば森茉莉はコロッケ、村上春樹は牡蠣フライ、稲田俊輔はカツレツ、椎名誠はコロッケパン。
とくに森茉莉のコロッケに関するエッセイは、どこをどう読んでもコロッケが食べたくなるので注意、と言いたくなるほど絶品なのだが。
森茉莉も書いているが、やっぱり作家たちは忙しいから、家でも楽しめる洋食というと作り置きができる揚げ物の印象が強いんだろうか。大人になると揚げ物を楽しむ機会ってすごく減ったと思うのだが、久しぶりにコロッケを食べたくなってしまう。


洋食という同じテーマでも、書き方やテーマの切り取り方の違いを楽しめる一冊となっている。ぜひおいしいごはんと一緒に読んでほしいアンソロジー集である。

 

この本を読んだ人が次に読むべき本

書籍:恋しくて - TEN SELECTED LOVE STORIES
(村上春樹 / 中央公論新社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/210400/

〈おすすめポイント〉村上春樹が編者となって、「ラブストーリー」ばかり集めたアンソロジー短編集。作家の選んだアンソロジー集は、どこか好みが見え隠れして面白い。新しく好きな作家を見つけたい人にもおすすめ。

書籍:『ベスト・エッセイ2022』
(角田光代 林真理子 藤沢周 堀江敏幸 他 / 光村図書出版)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/311426/

〈おすすめポイント〉
コロナ禍が日常となった2021年のエッセイを集めたアンソロジー。エッセイのお手本になるような文章がたくさん載っているので、ひとつはあなたの好みのエッセイが見つかるのでは!

 

Kaho's note ―日々のことなど

結婚しました~とTwitterで報告したら1200くらい「いいね」がついて驚きました。みなさまありがとうございます。一生分祝われた気がします。10年ぶりに一人暮らしじゃない生活、戸惑いつつも頑張っております……!笑

三宅香帆さんが選んだ1冊は、本が好き!月間ランキングから選出いただいています。
月間ランキングはこちらから
本が好き!2022年8月月間人気書評ランキング

 

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著者略歴

  1. 三宅香帆

    1994年生まれ。高知県出身。
    京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程を修了。現在は書評家・文筆家として活動。
    大学院にて国文学を研究する傍ら、天狼院書店(京都天狼院)に開店時よりつとめた。
    2016年、天狼院書店のウェブサイトに掲載した記事「京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う本ベスト20を選んでみた。 ≪リーディング・ハイ≫」が2016年年間総合はてなブックマーク数 ランキングで第2位に。選書センスと書評が大反響を呼ぶ。
    著書に外国文学から日本文学、漫画、人文書まで、人生を狂わされる本を50冊を選書した『人生を狂わす名著50』(ライツ社)ほか、『文芸オタクの私が教える バズる文章教室 』(サンクチュアリ出版)『副作用あります!? 人生おたすけ処方本』(幻冬舎)『妄想とツッコミで読む万葉集』(大和書房)『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』『女の子の謎を解く』(笠間書院)『それを読むたび思い出す』(青土社)『(萌えすぎて)絶対忘れない! 妄想古文 (14歳の世渡り術) 』(河出書房新社)。2023年5月に『名場面でわかる 刺さる小説の技術』(中央公論社)、6月に『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない―自分の言葉でつくるオタク文章術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を刊行。

    Twitter>@m3_myk
    cakes>
    三宅香帆の文学レポート
    https://cakes.mu/series/3924/
    Blog>
    https://m3myk.hatenablog.com/

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