今月の一冊は、踊ることに魅せられた女たちがたまらなく魅力的『裸の華』(集英社)
今月の1冊、『裸の華』(集英社)
書籍:『裸の華』
(桜木紫乃 / 集英社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/278345/
選書理由
踊る女たちの姿勢と、関係を描いた本書。
主人公は元ストリッパー、札幌のススキノにあるバーが舞台……と聞くともしかすると少し暗めな話を想像してしまうかもしれない。しかし実際読んでみると、物語の清廉さに驚かされる。
踊り手を目指す少女たちのまっすぐな努力と、彼女たちの師として仕事をまっとうしようとする主人公の強さに圧倒される小説なのだ。
ブックレビュー
物語は、主人公ノリカが札幌にバーを構えようとする場面から始まる。
ノリカはストリッパーとして踊りを修練する日々を過ごしていた。しかしある日、怪我で引退を余儀なくされる。
そして彼女は自分の店を持つことに決める。不動産をめぐり内装を決めているうちに、ノリカはひとりのバーテンダーと、ふたりの踊り子と出会うことになる。
彼女の店で踊ることになった少女たちは、バレエの基礎があるという点では共通していながらも、性格は真反対だった。
ふたりの少女のダンスを見せながらお酒を飲むダンスシアターとして、主人公の店は開かれた。
ススキノが舞台というと、なんだか勝手に人情ものとか場末のバーのような物語をイメージしてしまうのだが……実のところ、本書はダンスをめぐる師弟関係と仕事をまっすぐに描いた物語なのだ。
この話の魅力をひとことで伝えるのは難しい。
一方では、舞台に立つ少女の心の成長が、まるで少女漫画のように見えてくる。熱血で、でもどこか可愛くて、この子たちの舞台を私も見たい、と熱望してしまうような展開だ。
しかし一方で、主人公ノリカの一筋縄ではいかない仕事人としてのプロフェッショナルなあり方もまた、刺激的だ。若い少女たちの葛藤とはまた違う、ひとつの城を持ち少女たちを指導する立場の主人公の苦悩。それは本書をただのダンサー成長物語にしない、ひとりの「一度挫折をした女性」による仕事の向き合い方を描いた物語となっている。
「みのり、ちょっと、口を半開きにして踊ってみて」
ふたりが動きを止めた。
「口を開いたまま踊るんですか」とみのり。
「歯を食いしばってると、その緊張がぜんぶ客席に漏れていくの。女の体って空気を抜いた場所が色気になるのよ。口を半開きにすると、みんな赤い唇に気を取られるの」
「口を開くと体に力が入らないですけど」
「だからこそ、開くの。お客さんって勝手なものだから、完璧にやられると嫌悪感が先に立っちゃうのよ。それがやっかみだと自覚せずに、もの足りないと訴える。こっちはそこをくすぐって、同時に気持ちいい程度に突かなくちゃいけないの」
(『裸の華』集英社文庫p72より引用)
ひとりの女性が「ただ踊り続けたい」と願っていても、そこにはどうしても年齢や、容姿や、財力や、私生活との折り合いの付け方の問題が絡んでくる。
女性が舞台で踊るとき、ただ、踊っているだけではない。それぞれの人生を乗り越えて、踊っているのだ。
だからこの小説はものすごく面白い。踊り続けたいと願う女を描くことは、自分を乗り越えたいと願う女たちを同時に描くことになっているからだ。
この本を読んだ人が次に読むべき本
書籍:『銀橋』
(中山可穂 / KADOKAWA)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/308391/
書籍:『サイゴン・タンゴ・カフェ』
(中山可穂 / KADOKAWA)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/2450/
こちらは「ダンスを踊る女性たち」をテーマにした小説。タンゴを踊ることに取り憑かれた女性の物語となっている。
Kaho's note ―日々のことなど
北海道、ながらく行っていないのですが、今一番行きたい場所ナンバーワンです……! なんせ北海道のお菓子が私は大好き。買い占めたいです。ダイエットは無視して。ロイズも六花亭も生み出した北海道、何者? といつも思います。
三宅香帆さんが選んだ1冊は、本が好き!月間ランキングから選出いただいています。
月間ランキングはこちらから
・本が好き!2022年4月月間人気書評ランキング