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三宅香帆の今月の一冊 the best book of this month

今月の一冊は、人文学の巨匠・立花隆の自伝『知の旅は終わらない 僕が3万冊を読み100冊を書いて考えてきたこと』(文藝春秋)

今月の1冊『知の旅は終わらない 僕が3万冊を読み100冊を書いて考えてきたこと』(文藝春秋)

書籍:『知の旅は終わらない 僕が3万冊を読み100冊を書いて考えてきたこと』
(立花隆 / 文藝春秋)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/289533/

 

選書理由

立花隆の本を読むのが好きだった。その圧倒的な知識量に、「まだまだ読んでない本がたくさんあるなあ」と思うのが好きだ。彼の読書量のルーツが知られる自伝があると聞いて、読んでみたくなったのだ。

ブックレビュー


作家の自伝を読むたのしみはふたつある。

ひとつは、作家のつくった物語たちがもっと楽しめるようになること。
もうひとつは、作家自身がどのような物語を生きてきたと思っているのか、が分かることである。

小説やら漫画やら批評やら、作家が紡ぎだす物語は、すぐれた作家であればあるほど、本人のなにかしらの執着や拘りが反映されていることが多い。たとえば夏目漱石はどうしても三角関係を描きたがるし、太宰治は自身の自意識について何度も書く。村上春樹はどうして女性が消えなくてはいけなかったかをいつまでも追い続けているし、アーヴィングの主人公は大人になろうとしない。
彼らがつくる物語には、実は、彼ら自身の物語が反映されている。
でも読者が作家の物語を知ることはなかなかない。生きている間であればなおさら。「この作家、この話好きだよなあ」とぼんやり思いつつ、なんか執着したい問題意識があるんだろうな、くらいの感想で終わってしまう。
だけど自伝を読んだ場合は、別だ。
自伝とは、作家自身が紡ぎだす作家自身の物語だ。だからこそ、その作家の執着がいやおうなく飛び出す。すると作家の作品のファンなら分かる。「ああ、あの話はこのエピソードから来てるんじゃないか」と。するともっと作品が楽しく読める。
さらに、より面白いのは。自伝を読むと、ある意味、作家がどうやって自分の人生を物語りたいのか、が分かることだ。作家が自分を誰だと思って、どういうポジションに位置付けたいのか――いささか意地悪な読み方だけど、まあ、ファンならそれくらい邪推することを許してほしい――を読むことができる。
そして読者は知る。作家が自分の人生のなにを物語りたくて、なにを物語りたくないのか、を。

今回紹介する本は、「知の巨人」と呼ばれるノンフィクション作家、立花隆の自伝だ。 戦時中に生まれ、学生運動の時には東大に在籍し、文藝春秋社を3年目に辞めてルポライターとして活動を始める。そしてかの有名な田中角栄研究、『宇宙からの帰還』シリーズ、臨死体験などの著作を生み出す。
私は立花隆の本をわりと楽しく読んでいるのだが、いつもその妙な説得力に気圧されてしまうなあ、と思っている。なんというか、彼の扱う題材が「宇宙」だろうと「死」だろうと「政治」だろうと「超能力」だろうと、結局ほんとうにその知識が科学的に真実かどうかは別だけど、それでも、これはある種の真実なんじゃないかと妙に説得されてしまうのだ。端的に言ってしまえば、日本でこんなにも「オカルト現象」を説得力もって語れる人はいない。
だけど振り返ってみれば、私たちのほんとうに関心があること――たとえば死、人間の心理、政治の裏側、宇宙の果て、脳のなか――は、目に見えない。科学的に、つまりは観測可能なかたちで真実だと認められる真実は、なかなかそこには見当たらない。 だからこそ立花隆のような、人文学の巨匠が必要なのだ。
そして自伝を読むと、そのルーツが、立花自身の物語がよく分かる。田中角栄研究に至るまでの自分が何をすればいいのか分からない期間があったこと、科学に興味はあるものの無理やり文系に進むように言われたこと、本を読まなきゃやってられんバカになると思って会社を辞めた日のこと。
そして一般的な自伝からするとプライベートの記述が少ないこともちょっと気にかかる。これはおそらく、立花隆が「物語たくない」範囲の話、ではあるのだろうけれど。
作家の自伝を読むと、作家の作品を読むにも二度おいしい。
立花隆のように多作な作家なら、なおさらだと私は思う。

 

この本を読んだ人が次に読むべき本

 

書籍:アガサ・クリスティー自伝〈上〉』『アガサ・クリスティー自伝〈下〉
(アガサクリスティー / 乾信一郎)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/77592/
https://www.honzuki.jp/book/290712/

〈おすすめポイント〉
私がおすすめしたい自伝といえばこちら。推理小説家クリスティの自伝だけど、読むとなんだか前向きになれる。推理小説に詳しくなくても楽しく読めます。

書籍:無限の網 草間彌生自伝
(草間 彌生/新潮社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/202434/

〈おすすめポイント〉
芸術家・草間彌生は、どうやって生まれ、なにを目指すのか。彼女の芸術に対する生き様、天才と呼ばれる理由が伝わってきて、胸が痛くなるほど面白いです。

Kaho's note ―日々のことなど

梅雨、続きすぎじゃないですか!? あ、頭が痛い~とうめきながら日々を過ごしてます。みなさまお元気ですか。雨は続きそうですが、健康に気を付けていきたいですね!?

三宅香帆さんが選んだ1冊は、本が好き!月間ランキングから選出いただいています。
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本が好き!2020年6月月間人気書評ランキング

 

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著者略歴

  1. 三宅香帆

    1994年生まれ。高知県出身。
    京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程を修了。現在は書評家・文筆家として活動。
    大学院にて国文学を研究する傍ら、天狼院書店(京都天狼院)に開店時よりつとめた。
    2016年、天狼院書店のウェブサイトに掲載した記事「京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う本ベスト20を選んでみた。 ≪リーディング・ハイ≫」が2016年年間総合はてなブックマーク数 ランキングで第2位に。選書センスと書評が大反響を呼ぶ。
    著書に外国文学から日本文学、漫画、人文書まで、人生を狂わされる本を50冊を選書した『人生を狂わす名著50』(ライツ社)ほか、『文芸オタクの私が教える バズる文章教室 』(サンクチュアリ出版)『副作用あります!? 人生おたすけ処方本』(幻冬舎)『妄想とツッコミで読む万葉集』(大和書房)『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』『女の子の謎を解く』(笠間書院)『それを読むたび思い出す』(青土社)『(萌えすぎて)絶対忘れない! 妄想古文 (14歳の世渡り術) 』(河出書房新社)。2023年5月に『名場面でわかる 刺さる小説の技術』(中央公論社)、6月に『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない―自分の言葉でつくるオタク文章術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を刊行。

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    三宅香帆の文学レポート
    https://cakes.mu/series/3924/
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