今月の1位は膨大な資料を読み込んで執拗なまでにアイヒマンの過去を洗い出す『エルサレム〈以前〉のアイヒマン』(みすず書房)
本好きが集い、書評を投稿する読書コミュニティ「本が好き!」の 2021年7月の月間人気書評ランキングを発表します。 (同じレビュアーさんが違う書評でランクインしていた場合はより上位の書評のみを掲載しています。つまり2021年7月で、投票数が上位だった10人の書評が掲載されています)
1位
書籍:『エルサレム〈以前〉のアイヒマン』
(ベッティーナ・シュタングネト,香月恵里/みすず書房)
レビュアー:かもめ通信さん 得票数:39
書評掲載日:2021-07-01 10:24:02
書評URL:https://www.honzuki.jp/book/297843/review/262955/
「一九六三年の『エルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告』以来、アドルフ・アイヒマンについて語る試みは何であれすべて、ハンナ・アーレントとの対話でもあった。」と著者はいう。
1961年にアメリカ・エール大学のミルグラム博士によって行われた実験は、権威者による命令が個人を従属させ、他人に電気ショックを与えるといった残酷な行為さえも“自分は命令に従っただけと自らを納得させてしまう”という結論を引き出した、通称「アイヒマン実験」として知られている。
もう随分昔のことになるが、学生時代に受けた心理学の講義で「アイヒマン実験」にふれたことをきっかけに、ハンナ・アーレントの『イェルサレムのアイヒマン』(旧版)を読んだ。そういうきっかけだったせいもあるのだろう。
ミルグラムの実験はまさに、アイヒマン裁判を傍聴したアーレントが導き出した結論……続きを読む
---------------------------
書籍:『リボルバー (幻冬舎単行本)【Kindle】』
(原田マハ/幻冬舎)
レビュアー:ことなみさん 得票数:37
書評掲載日:2021-07-05 16:40:41
書評URL:https://www.honzuki.jp/book/299762/review/263695/
ゴッホとゴーギャンとひまわりとリボルバー。ゴッホの死の謎は?リボルバーに絡むもう一つの世界。
本屋さんで目に入った「ひまわり」の表紙を見て、面白かった「楽園のキャンバス」を思い出した。 ゴッホの絵は7点大塚美術館に精巧な陶板画で展示されていた、名作というゴッホの渦巻く絵は、見たい時と見たくない時がある。激しいタッチに現れた生き方そのものも、焦点を当ててそれだけに絞ると、彼だけではないだろうと思う生き方ながら、惹かれながらも恐ろしくもある。…続きを読む
---------------------------
3位
書籍:『山の人魚と虚ろの王』 (山尾悠子/国書刊行会)
レビュアー:darklyさん 得票数:36
書評掲載日:2021-07-21 21:54:02
書評URL:https://www.honzuki.jp/book/296133/review/264332/
意味を求めるのではなく、ゴールのないジェットコースターのような、悪夢のようだが甘くもある迷宮を存分に楽しむための小説。
筋と言えば、新婚旅行、一日目の駅舎ホテル、そして夜の宮殿での奇妙な体験。現実的な話が進んでいきながら、少し違和感のあるシュールな展開に読み返しながら首を捻っていると、一気に現実離れした世界に連れ込まれ、これは夢の中の話かと思いきや、いつの間に現実に戻っている。このようなゴールのないジェットコースターのような展開が続いていく。…続きを読む
---------------------------
4位
書籍:『王女物語――エリザベスとマーガレット』
(マリオン・クローフォード、中村妙子/みすず書房)
レビュアー:ぽんきちさん 得票数:34
書評掲載日:2021-07-15 22:13:05
書評URL:https://www.honzuki.jp/book/292472/review/264099/
おとぎ話の向こう側。
―むかしむかし、あるところに美しい王女様がいました。 と始まるのはおとぎ話だが、本書の主人公たちは現実の王女様たちである。 イギリス王室のエリザベス王女とマーガレット王女。現イギリス連邦女王とその妹である。著者は2人の王女の家庭教師として、17年もの間、国王一家と生活を共にし、家族の一員同様に遇されたマリオン・クローフォード、通称「クローフィー」である。…続きを読む
---------------------------
4位
書籍:『バルサの食卓』
(上橋菜穂子、チーム北海道/新潮社)
レビュアー:休蔵さん 得票数:34
書評掲載日:2021-07-26 07:09:08
書評URL:https://www.honzuki.jp/book/22688/review/263289/
ファンタジー物語に架空の料理はよく登場する。想像してはみるものの、その実際は分からない。やきもきする。そのやきもきを、特定の物語については解消してくれるのが本書である。
ファンタジー物語に架空の料理が登場することは多い。想像してはみるものの、実物がこの世に存在しないため、きっちりとした想像は不可能だ。食材すら存在していないのだから、仕方ないこと。でも、登場人物がおいしそうに食べてみたり、へろへろなところを身体も気分もすっかり回復する様子を読んでいると、無理やりにでも想像してみたくなる。こんな身勝手は願望をかなえてくれたのが、本書である。…続きを読む
---------------------------
書籍:『JR上野駅公園口』
(柳美里/河出書房新社)
レビュアー:たけぞうさん 得票数:33
書評掲載日:2021-07-02 18:51:23
書評URL:https://www.honzuki.jp/book/293601/review/263302/
ふと気がつくと精神が侵されている。
とても恐ろしい作品です。全米図書賞は非常に有名な賞とのことですが、この作品の受賞に深く納得です。そしてAmazonでの読者評価がぱっきりと分かれていて、 小説というよりもルポではないかとか、描写不足の作品だと叩く人が多いことも納得です。日本で最近評価を集めるタイプの作品とは違う異質さがありますから。…続きを読む
---------------------------
書籍:『オリンポスの果実』 (田中英光/)
レビュアー:紅い芥子粒さん 得票数:32
書評掲載日:2021-07-10 15:27:56
書評URL:https://www.honzuki.jp/book/204140/review/263888/
原題は「杏の実」。「オリンポスの果実」に改題させたのは、太宰治だったという。 作者は、師・太宰治の死の一年後、太宰の墓前で自殺した。36歳だった。
杏——甘くて酸っぱい初恋の味。噛むと、かたい種に歯があたる。物語は、”秋ちゃん”に向けた手記の形式で書かれている。手記は、語り手の”ぼく”が、財布の中から干からびた杏の種を取り出し、自宅の庭に捨てるところから始まっている。その財布は、ロスアンゼルスに旅した時に買った記念の財布だ。…続きを読む
---------------------------
7位
書籍:『複眼人』
(呉明益、小栗山智/KADOKAWA)
レビュアー:ぱせりさん 得票数:32
書評掲載日:2021-07-09 07:10:05
書評URL:https://www.honzuki.jp/book/297023/review/263749/
原題は「杏の実」。「オリンポスの果実」に改題させたのは、太宰治だったという。 作者は、師・太宰治の死の一年後、太宰の墓前で自殺した。36歳だった。
杏——甘くて酸っぱい初恋の味。噛むと、かたい種に歯があたる。物語は、”秋ちゃん”に向けた手記の形式で書かれている。手記は、語り手の”ぼく”が、財布の中から干からびた杏の種を取り出し、自宅の庭に捨てるところから始まっている。その財布は、ロスアンゼルスに旅した時に買った記念の財布だ。…続きを読む
---------------------------
9位
書籍:『ドミノ』
(恩田陸/角川書店)
レビュアー:三太郎さん 得票数:31
書評掲載日:2021-07-03 11:48:31
書評URL:https://www.honzuki.jp/book/3313/review/263496/
登場人物が27人と1匹! 東京駅構内で繰り広げられる恩田陸のドタバタ喜劇。
「ホンノワ」テーマ:2021年夏文庫フェアに挑戦!(1) カドフェス に参加しようと、この本を手に取りました。
実は僕はこれまで角川文庫はほとんど読んだことがなかったようです。不思議ですが…。ところで、恩田さんの本を読むのはこれが4冊目なのですが、これまでとどうも勝手がちがう。解説によると主要な登場人物が27人+1匹だという。…続きを読む
---------------------------
10位
書籍:『もう探偵はごめん』
(コーネル・ウールリッチ/早川書房)
レビュアー:hackerさん 得票数:29
書評掲載日:2021-07-16 19:01:26
書評URL:https://www.honzuki.jp/book/100353/review/263885/
このところ続けてレビューを書いている、ポケミス版ウールリッチ=アイリッシュの短編集の一冊です。本書は日本独自編纂です。
ポケミス版ウールリッチ=アイリッシュの短編集は、今まで日本独自編纂の『妄執の影』『睡眠口座』『ギロチン』『私が死んだ夜』と、本国で刊行された短編集『悪夢』『今夜の私は危険よ』の計6冊のレビューを書いていて、日本独自編纂の本書は7冊目になります。…続きを読む
---------------------------
10位
書籍:『白夜』
(ドストエフスキー/角川書店)
レビュアー:千世さん 得票数:29
書評掲載日:2021-07-04 12:13:36
書評URL:https://www.honzuki.jp/book/12155/review/263659/
孤独な青年は、恋した少女の幸せのためにひたすら奔走した。愚かなまでにやさしく、内気な性格の彼は、後の『虐げられた人々』や『白痴』の主人公を思わます。ドストエフスキー初期の、悲しくも美しい作品です。
ドストエフスキーの若き日の短編『白夜』です。ドストエフスキーと言えば、もっとも有名なのは『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』などの長編小説ですが、本作はそれらとはかなり趣の異なる作品です。 しかし『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』をより深く理解するためには、この『白夜』や『貧しき人々』など初期の作品を読んでおくことも重要だと私は思っています。どちらも素晴らしい作品です。…続きを読む
---------------------------