今月の一冊は、多くの悲しみを抱えながらそれでもひたむきに生きる人々を描いたアメリカ文学『マナートの娘たち』(東京創元社)
本好きが集い、書評を投稿する読書コミュニティ「本が好き!」の 2023年5月の月間人気書評ランキングを発表します。 (同じレビュアーさんが違う書評でランクインしていた場合はより上位の書評のみを掲載しています。つまり2023年5月で、投票数が上位だった10人の書評が掲載されています)
1位
書籍:『マナートの娘たち (海外文学セレクション)』
(ディーマ・アルザヤット、小竹由美子/東京創元社)
レビュアー:かもめ通信さん 得票数:39
書評掲載日:2023-05-08 05:23:14
書評URL:http://www.honzuki.jp/book/315721/review/290446/
多くの悲しみを抱えながらそれでもひたむきに生きる人々を描いたという点ではオーソドックス、手法という点では斬新で、テーマとしては極めて今日的な、現代アメリカ文学。お薦めです。
原題は“Alligator and Other Stories”(2020)、シリア系アメリカ人作家のデビュー短編集。
私の訳者読みリストの上位にお名前のある小竹由美子さんの翻訳で、ちょっと変わった構成のとても美しい本だと聞いたので、電子書籍ではなく紙本で読もうと、発売前から予約して入手した本だ。
振り返って考えてみると“移民文学”を読む、と考えていた時点で、かなりの先入観を持っていたといえるだろう。
だからなおさら、ということもあるかもしれないが、読みながら何度も何度も驚かされることになった。…続きを読む
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2位
書籍:『チェスナットマン (ハーパーBOOKS)』
(セーアンスヴァイストロプ、高橋恭美子/ハーパーコリンズ・ジャパン)
レビュアー:yukoさん 得票数:33
書評掲載日:2023-05-08 07:34:29
書評URL:http://www.honzuki.jp/book/301057/review/290885/
死体のそばにあるチェスナットマン(栗人形)の意味は一体・・・?
1989年10月、秋のある日。
赤や黄色に染まった木の葉が舞う森の中の農場へ、柵を壊して牛や豚が逃げ出したことを注意しに訪れた警官が、そこに住む一家...十代の少女と少年、その母親が惨殺されているのを発見し、救急車と応援を要請した時、数え切れないほどのチェスナットマン(栗人形)を見つける場面から物語は始まります。
そして物語は現在の10月へ。
シングルマザーの歯科衛生士が生きたまま手首を切り落とされ殺されます。…続きを読む
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2位
書籍:『マッカラーズ短篇集』
(カーソン・マッカラーズ、ハーン小路恭子、西田実/筑摩書房)
レビュアー:三太郎さん 得票数:33
書評掲載日:2023-05-25 13:01:57
書評URL:http://www.honzuki.jp/book/316764/review/291456/
乾いた文体と控えめなユーモアが印象的な作家だった。
著者のカーソン・マッカラーズは1917年に米国ジョージア州コロンバスに生まれた。短編の作家として知られているが、この短編集最初の「悲しき酒場の唄」は120ページあってちょっと長い。この作品だけは以前にあった翻訳に手を加えたもので、その他の短編はごく短いものだが新訳だとか。…続きを読む
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4位
書籍:『芽むしり仔撃ち(新潮文庫)』
(大江健三郎/新潮社)
レビュアー:紅い芥子粒さん 得票数:32
書評掲載日:2023-05-15 14:52:44
書評URL:http://www.honzuki.jp/book/254332/review/291121/
空爆の激しくなった都市から、谷間の村へ、感化院の少年15人が疎開してきた。その村では、動物たちの間に疫病が蔓延していて……
昭和三十三年六月に発表された、大江健三郎初の長編小説である。
”僕”の一人称で語られる。太平洋戦争がもうすぐ終わるころの物語だ。
”僕”たちは、感化院の院生である。その感化院のある都市も、空爆が激しくなり、”僕”たちは田舎に疎開することになった。疎開に先立って、感化院の教官は、院生たちの親に引き取りをよびかけた。感化院だから、非行少年ばかりである。傷害、窃盗、売淫……。わが子とはいえ、やっかいものを引き取りに来る親は少なかった。…続きを読む
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4位
書籍:『カメラにうつらなかった真実 3人の写真家が見た日系人収容所』
(エリザベス・パートリッジ、ローレン・タマキ、松波佐知子/徳間書店)
レビュアー:ぱせりさん 得票数:32
書評掲載日:2023-05-06 05:08:57
書評URL:http://www.honzuki.jp/book/315637/review/289275/
だから、あえてカメラを向けた
1941年12月8日、日本軍による真珠湾爆撃を受けて、アメリカ政府は日本に対して宣戦布告した。
1942年2月19日、西海岸に住む12万人以上の日系人を退去させる大統領令が発令された。 多くの民間人が裁判を経ずに、鉄条網に囲まれ、銃を向けられた、劣悪な条件の施設に閉じ込められたのだ。移送、転住センターという、わりとソフトな言葉で呼ばれていたが、強制退去、そして強制収容所への収監である。…続きを読む
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6位
書籍:『年月日』
(閻連科/白水社)
レビュアー:ことなみさん 得票数:31
書評掲載日:2023-05-07 16:10:01
書評URL:http://www.honzuki.jp/book/243604/review/290876/
知らないでなんだかとんがった作家で苦手だと思っていたのです。大間違い、固い土の下は生物を守り育てる豊かな土壌が重なっている。そんな作品を生み出し、そんな世界を書く人でした。
初読みのこの「年月日」から「閻連科」作品の大きな世界をもっと知りたいと思いました。
いつの間にか思いあがっていました。便利で清潔で豊かな世界を創造したのは人類だと。 この本を読んで自然にうつむいてしまうのです。
自然と共存し、季節の巡りと共に生きていた生活は、この物語のように、人間も特別ではなく自然の一部だったと、厳しさも暖かさも、喜びも悲しみも自然の中から生まれてきたのだと改めて気づかされました。…続きを読む
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6位
書籍:『わたしの舞台は舞台裏 大衆演劇裏方日記』
(木丸みさき/KADOKAWA/メディアファクトリー)
レビュアー:ぽんきちさん 得票数:31
書評掲載日:2023-05-01 06:27:08
書評URL:http://www.honzuki.jp/book/230786/review/290532/
庶民の娯楽、大衆演劇とは
大衆演劇をご存じだろうか。
旅の一座が、下町などにある小さな劇場や温泉・ヘルスセンターで、義理・人情の時代劇や歌謡・舞踏ショーを行う。一般的な演劇や歌舞伎などに比べて料金は安め。客と役者の距離が近いのも特徴である。
有名どころでは、「下町の玉三郎」と言われた梅沢富美男が大衆演劇の出身である。…続きを読む
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6位
書籍:『図書館ウォーカー: 旅のついでに図書館へ』
(オラシオ/日外アソシエーツ)
レビュアー:ぱるころさん 得票数:31
書評掲載日:2023-05-11 19:46:37
書評URL:http://www.honzuki.jp/book/316574/review/290978/
『旅のついでに図書館へ』という提案を通して、著者が伝えたいこととは…
全国各地にはどんな図書館があるのだろうかとパラパラ眺めていたら…私の実家近くの市立図書館も載っていたので、この本をじっくり読んでみたいと思った。
ライター、エッセイストとして活動する著者は、陸奥新報で『図書館ウォーカー』という図書館の紹介記事を連載。本書はその中から66編を選び、写真やコラムを加えて単行本化したもの。…続きを読む
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9位
書籍:『私戦』
(本田靖春/河出書房新社)
レビュアー:darklyさん 得票数:30
書評掲載日:2023-05-24 21:02:47
書評URL:http://www.honzuki.jp/book/208704/review/291486/
ジャーナリズムとはかくあるべし。今も輝くノンフィクションの名作。
在日朝鮮人の金嬉老は幼少期から差別を受け荒んだ生活の中、暴力団に嵌められ謂われなき借金を負わされた上に追い込みをかけられライフルで暴力団員二人を殺害、静岡県の寸又峡の宿に人質を取って立てこもった。彼は警察の一部から差別的な扱いや言動を受けたことの不当さを、朝鮮人が日本においていかに差別を受けているかを世間に知らしめた上で自殺しようと考えていた。…続きを読む
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9位
書籍:『赤い小馬』
(スタインベック/新潮社)
レビュアー:すずはら なずなさん 得票数:30
書評掲載日:2023-05-19 15:20:53
書評URL:http://www.honzuki.jp/book/285983/review/291283/
自然の中で少年が大人になっていくこと
何度も手にしながらずっと読めなかったこの作品は、私にとって「優等生の感想文用の小説」というイメージがあった。
というのも、背伸びしながら大したことの無い読書体験を総動員して書いた私の別の本の感想文と同時に文集に載った「赤い小馬」の感想文を書いたのが それこそどんなに背伸びしても敵いっこない超優秀な同級生だったからだ。
彼女がきっと深く考察し心を込めたであろうその感想文を 読まなかったことをとても後悔している。今さらなんだけれど。…続きを読む
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9位
書籍:『赤い右手』
(ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ/東京創元社)
レビュアー:hackerさん 得票数:30
書評掲載日:2023-05-20 02:10:30
書評URL:http://www.honzuki.jp/book/222684/review/289308/
本書は評価が割れているようですね。ミステリーを読む時は「嘘でいいから騙してほしい」と思っている私は、この嘘っぽい内容がけっこう楽しめました。
1945年刊の本書は「ドクター・ヘンリー・N・リドル・ジュニア(という立派な名前の)通称ハリー・リドル、ニューヨーク市の聖ヨハネ総合病院に勤務する外科医で、「注意力に優れ観察眼にも自信があり、現実的な考え方と自制心を自負する」一人称の主人公が、自分が証人の一人となった殺人事件を解決するために知りうる限りの事実を整理し、殺人犯の解明と事件解決につなげようとするために書いた手記という形式を採っています。…続きを読む
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